トシログ 夏の新潟・前編

夏の新潟・前編 「直線は美しい。真っ直ぐなものに惹かれる。」

今はもう秋、僕はそれを思い出す。それでもやっぱり夏の新潟を忘れられない。

夏は新潟に行くことにしている、と玄人ぷりを発揮する気はない。足掛け2年目の黄昏である。

新潟を訪れるのは、忘れ物を探すためだ。というと美しいので、そういうことにしておこうと思う。
忘れ物をしたのは僕だけじゃない。そういう人たちはゴマンといるのが夏の新潟なのである。

夏の新潟では毎年(といっても今年で二年目である)、適当な飯を食い、適当な宿に泊まることにしている。疲れたな、と思ったらその場に座ったらええ。優しさに似た奔放な場末感が夏の新潟に相応しい。

ところが今年は、そのトムソーヤのような当たって砕ける計画性のおかげで宿無しになるところだった。いくらジャングルを飛び回る気概を持ち合わせていようと、健康で文化的なステイを熱望するのがゆとり世代というものだろう。新潟中のビジネスホテルや旅館、漫画喫茶にいたるまですべてが完膚なきまでに埋まっていた。新潟市のみではない、新潟県全土、強いては山形県南部、鶴岡近郊まで宿が取れない始末だ。

ネットからの予約では埒が明かないので、ビジネスホテルのフロントに直接赴いて問い合わせてみることにした。意外とこれまでの人生、世紀末的な表情で頭を下げればなんとなく巧くいってた、という経験則がある。駄目だといわれても、大体なんとかなるのが世の中だ。ところがテコでも動かない、はらたいらさんでも解けない問題があるものだ。

僕「本日4名でお願いします」
フロント「は?」

ネイルサロンで「中トロください」、といったらまずまず頷ける反応であるが、些か失礼ではないだろうか。

フロント「本日は満席でございます(怒)」
僕「どこも埋まっているみたいですが何かやってるんでしょうか?」
フロント「長岡の花火です(怒)」

彼は誠実な青年である。
ホテルマンを志してからというもの、三度の飯よりお客様というのが教訓だ。大体の日々を健やかに過ごすことができる、そんな穏やかなおっとりとした性格だ。深夜のスーパーのお惣菜コーナーに忘れられた半額のアジフライにも愛を注ぐ。レンジでチンしてくたくたになっても美味しくいただける繊細な優しさを持っている。ところが毎年8月のこの日はだけは我を失う自分を知っている。1000回同じ問い合わせを聞いているはずだ。彼は何も悪くない。長岡の花火とは日本三大花火に数えられる、とっても有名な花火大会だ。そんな当日に宿を予約しようだなんて愚かの極みである。

途方に暮れるべきだろうか、それでも刻一刻と状況は変わるのである。携帯に新潟市の空宿情報が飛び込んでくるのがスマホ世代だ。カストリのような宿がひとつ空いたようだ。問い合わせてみると1泊お一人様3万円だという。どんなにすごい宿かと画像検索してみると、外観看板に「新潟県内最安!1泊3000円」と掲げられていたので僕らはもう新潟市を後にすることにした。

後編に続く